歯根嚢胞(しこんのうほう)とは顎嚢胞の一種であり、顎骨内に形成される嚢胞(液体を含む病的な袋構造)の中に歯根を含んでいるものを指します。嚢胞は周囲の顎骨を圧迫し、歯並びに悪影響を与えたり、顎骨を溶かしたりして、最終的に顎骨の骨折や崩壊を招くため早期の治療が必要となる疾患です。しかし、犬での報告は少なく、知らない方も多い病気です。
この記事では、犬の歯根嚢胞について解説し、本疾患についてより多くの方に知って頂ければと思います。
■目次
1.歯根嚢胞の発生原因とその進行過程
2.症状
3.なりやすい犬種
4.診断・治療方法
5.食事・予防対策
6.まとめ
歯根嚢胞の発生原因とその進行過程
歯根嚢胞の原因として多いのが埋伏歯で、これは生えてくるはずの歯が顎の中に埋もれてしまっているものです。埋伏歯の出す物質のせいで嚢胞が形成され、歯根嚢胞となります。そのため歯根嚢胞に気がついていなくても、歯が足りない、生えてこないなどの主訴で来院されるケースもあります。
また、虫歯の進行や歯周病、事故による外傷も原因として挙げられます。
これらの原因により、歯髄の感染が歯根の先端に達すると、根尖性歯周炎を引き起こし、それが慢性化すると、歯根嚢胞が形成されます。
症状
歯根嚢胞は顎の骨の中で徐々に成長するため、初期には自覚症状がほとんどありません。しかし、次第に嚢胞が大きくなると歯茎に膨らみがみられ、触るとペコペコとした感触があります。(痛みを伴う場合もあるため、無理には触らないようにしましょう)
また、大きくなった嚢胞が周りの神経を圧迫する場合、強い痛みを伴い、食欲不振や片側でしか咀嚼しないなどの行動が見られます。
なりやすい犬種
ボストンテリア・パグ・ボクサーなどの短頭種や、チワワなどの小型犬に起こりやすいとされています。
診断・治療方法
嚢胞や口腔内の様子を視診で確認し、歯科用X線検査の撮影をします。
X線検査では嚢胞の状態や埋伏歯の有無、顎骨の吸収の程度、骨折はないかなどを確認します。
初期であれば、歯の神経を切除し、歯の根っこ部分を消毒する治療で完治する場合もあります。
しかし、歯根嚢胞が進行し、サイズが大きくなったり、上記の治療のみでは完治は難しいと考えられる場合には、嚢胞の摘出手術をすることが多いです。感染が限定された部位にある場合、歯根端切除術(感染した歯根の先端部分を切除する手術)を行い、その後嚢胞を摘出します。
また、歯根の状態が良くない場合、原因歯の抜歯を行うこともあります。
食事・予防対策
歯根嚢胞を患っている子や、歯根嚢胞の切除後には、やわらかくふやかしたフードや缶詰、フェットフードなど、あまり噛む力を必要としない食事を与えましょう。
歯根嚢胞の発生自体を予防することは難しいですが、前述のように埋伏歯が関与するケースが多いため、生えてくるはずの歯が足りない場合には、一度動物病院で相談しておくと安心です。(犬の永久歯は上顎が20本、下顎が22本です)
また、定期的な歯磨きや動物病院での口腔内検診は、初期の歯周病や他の口腔内問題を発見するためにも大切です。必要に応じて歯石除去や歯のクリーニングを行いましょう。
まとめ
歯根嚢胞は2〜3歳の比較的若い子に多く、また特徴的な症状も呈さないため、日頃から愛犬の口の中を注意して見ていないと気がつきにくい疾患です。放置すると顎の骨折や崩壊につながることもあるため、愛犬の口腔内の様子を意識的にチェックし、、疑わしい症状がみられた場合は早めに動物病院を受診しましょう。
栃木県佐野市にある犬、猫専門動物病院
させ犬猫の病院